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広島高等裁判所岡山支部 昭和47年(う)40号 判決 1972年10月12日

主文

原判決を破棄する。

本件を岡山地方裁判所に差戻す。

理由

検察官の控訴の趣意は岡山地方検察庁検察官検事鈴木芳一作成の控訴趣意書記載のとおりであるからこれを引用する。

所論は要するに、本件は岡山地方裁判所に係属する上野満雄に対する暴力行為等処罰に関する法律違反・道路交通法違反被告事件と関連管轄があるにかかわらず原判決が右管轄なしとして管轄違の言渡をしたことは、刑訴法三条一項の解釈適用を誤つたもので破棄を免れないというにある。

よつて案ずるに、一件記録によると、本件は元来岡山簡易裁判所の専属管轄に属するものであるが、岡山地方裁判所に起訴された上野満雄に対する原判決添付の別紙起訴状記載の被告事件のうち、同裁判所に固有の事物管轄のある事件(第二の暴力行為等処罰に関する法律違反の公訴事実)に併合された事件(第一の道路交通法違反の公訴事実)と共犯の関係があり、従つてこれと刑訴法九条の関連管轄ありとして同裁判所に起訴されたものであることが明らかである。

しかるところ原判決は、「刑訴法三条により上級の裁判所が関連管轄を持つのは、固有の事物管轄事件と直接関連する事件(直接関連事件)に限られ、他の固有管轄事件と関連するため、その裁判所が関連事件として管轄するに至つた事件(関連管轄事件)と関連する事件(固有管轄事件との関係では間接関連事件)を含まないものというべきである」とし、その理由として「事物管轄は本来事案の軽重ないし審判の難易等事件一般の客観的性質に即して画一的に各級裁判所間に分配されるべきものであり、この原則に対する例外的取扱をするのは訴訟経済ないし処分の均衡を図る必要があり、または被告人の利益に合する等合理的な理由のある場合に限られるべき筋合のものである」従つて「間接関連事件については、直接には何ら関連のない事件が、他の事件を介し間接的に関連するが故に関連事件として上級裁判所において併合審判されることを認めると、間接関連の環は無限に拡がる可能性を持つから、そのうち直接関連する事件が同一手続で審理されることになるという点では、前記訴訟経済ないし処分の均衡保持の要請には合しても、反面被告人が何ら関知しない事由に基づき管轄を持つ裁判所において審判されるに至るという点でその利益を著しく阻害する可能性があり(関連事物管轄の定めは土地管轄の定めをその当然の結果として含んでいるからである)、かかる事態が制度的に生ずることを、同条が予定しているものとはとうてい考えられない」として、本件につき管轄違の言渡をしたのである。

しかし、上野満雄に対する前記起訴状記載の公訴事実のうち、第二の暴力行為等処罰に関する法律違反の事件は裁判所法二四条一号により地方裁判所に固有の事物管轄があり、同第一の道路交通法違反の事件は裁判所法三三条一項二号により簡易裁判所に事物管轄があるが、これは刑訴法三条一項、九条一項一号により地方裁判所に併合管轄が生ずることになる。ところで本件は、右により地方裁判所に併合管轄が生じた上野満雄に対する右第一の事件と同法九条一項二号により関連事件となるから同法三条一項により当然地方裁判所に管轄を生ずることになり、この場合を原判決のごとく間接関連であると解してもこれを特に関連管轄から除外する趣旨の規定はないのである。原判決はもしかかる場合管連管轄を認めると「間接関連の環は無限に拡がる可能性を持つ」し、「被告人の利益を著しく阻害する可能性がある」というのであるが、これらの懸念は事態が現実に発生した段階で実務的に対処すれば支障なく、関連管轄の環が拡がり過ぎ、或は関連管轄によつて被告人の利益を著しく阻害するに至つたときは、裁判所は弁論を分離し(同法三一三条)、または下級の裁判所にこれを移送することができる(同法四条)のである。管轄は審判の便宜、被告人の利益を考慮して定められたものであるから、関連管轄の環が拡がり過ぎず、また被告人が併合管轄を希望する場合も十分ありうべく、規定をことさら縮少解釈してこれらの場合の併合管轄を排除すべき理由はないものと考えられる。原判決はまた、関連事物管轄は土地管轄をその当然の結果として含んでいるから被告人の利益を著しく阻害する可能性があり、かかる事態が制度的に生ずることを刑訴法三条が予定しているとは考えられない、と説示するのであるが、土地管轄についてはすでに原判決のいう間接関連に相当する事件について同法九条一項二号により関連管轄を認容した高等裁判所の判決があり、最高裁判所もこれを違法としていないのである(最高裁昭和四三年一二月一七日決定、刑集二二巻一三号一四七六頁参照)。

要するに、本件は刑訴法三条、九条一項二号により岡山地方裁判所に管轄があるというべきであるから、これと異る見地に立ち本件につき管轄違の言渡をした原判決は失当として破棄を免れない。

よつて同法三九八条により原判決を破棄し本件を岡山地方裁判所に差戻すこととし、主文のとおり判決する。

(藤原啓一郎 三宅卓一 谷口貞)

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